携帯電話の電波が届かない山に登って突然、緊急事態に陥ったとしましょう。大きくてかさばる高価な衛星電話を取り出して電話をかければいいでしょうか?
そうではありません。そのようなサービスは一般消費者には決して手の届くものではありませんでした。
しかし、状況は急速に変化しています。
実際、AppleのiPhone 14を持っていれば緊急SOSのために衛星に直接接続することができるようになりました。確かに帯域はまだ小さくユーザが衛星を直接指定する必要があるのであなたはまだ不便に思うかもしれませんが、とても画期的なことです。Appleはすでにユーザーが緊急サービスにすばやく到達できるような回避策を発見しています。また「友達を探す」アプリケーションを使って、衛星を介して位置情報を友達や家族と共有することもできます。
デバイスや地上ネットワークを衛星に直接接続する機会を探っている業界では、この方面の改善や革新がさらに進むと予想されます。
これはコンシューマ市場向けに地上波以外の接続サービスというビジネスケースがついに登場したのか?という質問につながります。
アナリストMasonはそう考えており、衛星ブロードバンド製品とサービスは2030年までに2200億ドルの年間サービス収益を生み出し、3億5000万以上の衛星-デバイス間契約が600億ドルの年間収益を生み出す可能性があると予測しています。この機会を積極的に追求する衛星サービス・プロバイダーは増え続けています。
では、何が需要を喚起しているのでしょうか?
輝き始めた地上波以外のネットワークの柔軟性
地上波以外のネットワーク(NTN)は、長年の課題であったコネクティビティを実現するために次のような位置づけにあります。
サービスを得られていない人々への提供:多くの場合、従来のモバイルインフラを構築するにはコストが掛かりすぎるか不可能であるため、世界中で約7億5000万人が今もモバイルブロードバンドにアクセスできない状況にあります。
遠隔地への接続:世界人口の39%が農村部に住んでおり、遠隔地のインフラを構築・維持するためのビジネスケースが成立していません。鉱業、石油・ガス、農業分野の企業は経済的でないために遠隔地との接続ができないことが多いです。
携帯電話への接続:新しい低軌道衛星は基本的な音声アクセスに加え、航空会社、船舶、高速列車にプレミアムモバイルブロードバンドアクセスを提供することができます。
ネットワークのレジリエンス(復元性):戦争、サイバー攻撃、長時間のネットワーク停止による接続性の喪失、緊急事態、災害時などにおいて、地上ネットワークをバックアップすることができます。
エッジネットワーク配信:スポーツの試合やコンサートなどの大規模イベントはネットワークエッジで行われることが多く、遠隔地であったり、エッジクラウドをセントラルネットワーククラウドに接続するための必要な機能がない場合があります。
このようなニーズには、地上波ではない衛星ネットワークで対応することができます。
衛星通信と地上のモバイルネットワークで最もエキサイティングな分野のひとつは、まだ始まったばかりの衛星直収電話サービスの周辺です。
現在、地上波のセルタワーは携帯電話やデバイスに対して限られた範囲のローカルなカバレッジを提供しています。衛星通信に接続するためには高価な独自のスタンドアローン衛星電話とそれに付随する契約が必要です。今後、業界では標準的な携帯電話が衛星に直接接続できるようになる世界が期待されています。
3GPPはリリース17標準の一部としてこの機能を計画しており、n256およびn255のFR1バンドをサポートする将来の携帯電話は準拠した衛星システムにアクセスすることができます。Lynkのような新規参入組は、現在の携帯電話周波数帯を使用するすべての携帯電話が衛星に直接接続できるようにするための独自のメカニズムに焦点を当てています。
地上波以外の衛星ネットワークには様々な種類があり、それぞれに長所と短所があります
衛星ネットワークは長い間利用されてきました。しかし巨大で柔軟性に欠けるシステムから、より身近でソフトウェア駆動型の小規模な衛星群へと進化を遂げています。ここでは主な種類を確認しておきましょう。
静止地球軌道(GEO)衛星は最初の衛星ネットワークです。3万5千キロ以上離れているため、遅延や干渉の問題はあるものの最低3機の衛星で地表の99.9%をカバーする大規模なカバレッジを維持することが可能です。衛星は巨大で地球への送信に大量の電力を消費し、コストが掛かります。現在、軌道上には約540の衛星がありモバイルバックホール、気象データ、テレビ放送、基本的なモバイルインターネット用の高スループット衛星(HTS)サービスなどの衛星通信サービスを提供しています。
中型地球軌道(MEO)の衛星は近接2kmからGEOとほぼ同じ距離まで離れることができます。MEOはGEOと同様、少数の衛星で広いエリアをカバーすることができます。MEOは通常、測位、航法、タイミング(PNT)サービスやより高いスループットのバックホールやデータ接続を提供するために使用されます。MEOを提供する有名なPNT事業者には米国のGPS衛星システム、EUが所有するGalileo、および中国のBeiDouが含まれます。GEOと同様、MEOは高遅延(平均180ms)のためモバイルブロードバンドサービスとの競合は難しいです。
低軌道衛星(LEO)は軌道が500kmと低いため、低遅延で高スループットのサービスを提供することが可能です。しかし全世界をカバーするためには、数千機の衛星をメガコンステレーションで運用する必要があります。すでに3,700機以上のLEO衛星が軌道上に投入されています。
LEOはゲームを変える新しいフロンティアである
LEOは何もないところにインターネットアクセスを提供し、サービスが行き届いていない遠隔地のユースケースのニーズに応えます。LEO はソフトウェア駆動型であるため、例えば Starlink では従来の軍事衛星では数数ヶ月掛かっていた衛星のリダイレクトを、ウクライナ支援のために迅速に行うといった柔軟性を備えています。
今後 5 年から 10 年の間に、2200 億ドル規模の非地上ネットワーク市場を開拓するため、多くの LEO 企業がメガコンステレーションの打ち上げを計画しています。Starlink、OneWeb、Telesat、Kuiper (Amazon)、Kepler、Galaxy Space などはすべて関与しています。NTNは5Gと融合してより優れたカバレッジ、スループット、低遅延を提供するように成熟しつつあります。そして衛星の価格やコストはもはや参入障壁にはならないでしょう。
今後5年から10年の間にLEOの新しいプレーヤーがメガコンステレーションの打ち上げを計画しています。
大手地上波携帯サービスオペレータはリスクとリターンを見極めながらビジネスケースやパートナーシップを検討し、早急に取り組む必要があると認識しており、実際多くのオペレータとLEOサービスプロバイダーとの間にパートナーシップが形成され始めています。例えば、ASTスペースモバイルは楽天(出資者)、ボーダフォン(出資者)、オレンジと提携、OneWebはAT&T、ソフトバンク(出資者)、テレフォニカと提携しています。Amazon/Project KuiperはVerizonと、StarlinkはT-Mobileと提携しています。
さらに従来の通信事業者だけでなく、クラウドハイパースケーラーも参入しています。クラウドのハイパースケーラーも世界中のどこにでもクラウドやエッジアクセスを提供できるよう、大きく関わっています。Microsoft AzureとGoogle CloudはStarlinkと提携しています。Amazonは独自のLEOプロジェクトKuiperを構築し他の企業と提携しています。
成長する LEO NTN 市場に多くの収益機会があることに、業界は大きな期待を寄せています。しかし、技術的、商業的な課題がまだ横たわっています。次回のブログではNTN規格や試験に関する注意点などをご紹介します。
Spirent Vertexによるこの分野のテストの詳細については、当社のホワイトペーパー『Testing Satellite Communications for 5G Networks』をご覧ください。