セルラーネットワークは、正確な時刻と同期を確保する上で、GNSSのタイミングレシーバーに依存しています。当社のテストによると、マルチパスシグナルが、密集した都市部に設置されたタイミングレシーバーにとって、大きな脅威となっています。
最新のテレコミュニケーションネットワークで課題となっているのがタイミングです。ネットワークで、音声・データ通信ともスムーズに行えるよう、セルラーネットワークのベースステーション(BS)同士が、高度に同期する必要があります。これは、全てのセルが同期するための、高精度な時刻基準が必要であることを意味します。
ほとんどのセルラーネットワークに対しては、GPSなどのグローバル衛生ナビゲーションシステム(GNSS)によって、こうした参照時刻信号が提供されます。参照時刻信号は、ネットワークの時刻基準装置(PRTC)に設置されたGNSSレシーバーで受け取られ、GNSSレシーバーによって1PPSタイムシグナルに変換されます。このタイムシグナルは、時刻、フェーズ、周波数を、他のネットワークの時計と同期させるための参照信号として機能します。
参照信号を受け取る側の時計では、数時間以内に同期が狂う傾向がありますが、そうした状況を回避するため、PRTCはGNSSから継続的に時刻情報を取得し、最新のものをネットワーク上で共有します。
GNSSから得られる時刻情報は、常に信頼できるわけではない
アーキテクチャーの違いがあっても、これがセルラーネットワークにおける、時刻と同期への対応として基本的なものとなり、また通常は上手く機能します。しかし、このアプローチは1つの重要な前提に基づいています:GNSSからの時刻情報が正確で信頼に足りる、というものです。実際には、そうした前提が常に成り立つわけではありません。
GNSSからの時刻信号が正確であるとは限らない理由は、ラジオ周波数(RF)の干渉から、時折発生する衛生システムのエラーまで、数多く挙げられます。この問題については、役に立つ概要が、本ITUテクニカルレポートの 10~13ページに掲載されています本ブログでは、1点のみにフォーカスします:GNSSシグナルのマルチパスによる断片化、です。
マルチパスは、GNSS信号の受信にとって脅威
マルチパスとは、GNSS信号が受信アンテナに送られる際、途中で障害物にぶつかった際に発生する現象です。高いビル、樹木、乗り物、そして地面までもが、信号を跳ね返し、また回折させる障害物となり、アンテナで受信されるまでのコースに差異を生じさせます。
こうして生じる到着時刻の差異により、レシーバーが受信したGNSS信を計測される際に偏差が生じ、レシーバーが発信する1PPSタイムシグナルが不正確になることで、ネットワークのタイミングパフォーマンスに微妙な変動や劣化がもたらされます。
(マルチパスに関する詳細な情報については、当社の電子ブックをお読みください:マルチパスと掩蔽を理解する 都市環境におけるGNSS信号の伝播をシミュレーションする方法)
5Gネットワーク時代の到来にともない、より多くのベースステーションとその同期が必要となり、GNSSチップセットの開発者やPRTCの開発者やユーザーにとって、マルチパスがタイミングや同期の正確性に及ぼす影響を理解し、また軽減措置を取ることが不可欠となっています。
タイミングレシーバーの開発者やユーザーによる、マルチパスに起因するリスクの査定をサポートするため、SpirentおよびそのパートナーであるCalnexは、マルチパスが専用のタイミングレシーバーに及ぼす影響を評価するための、完結したシミュレーションのテストベッドを開発しました。
マルチパスの影響は場所によって異なり、計測が困難
PRTCに対するマルチパスの影響の計測は、PRTCアンテナが設置される位置に左右される度合いが大きいため、困難となります。障害物が少なく空が見通せるオープンエリアに設置されたアンテナは、影響があったとしても僅かなものにとどまります。一方で、密集した都市部に設置され、高いビルに囲まれたアンテナに関しては、マルチパスが無視できない影響を及ぼします。
マルチパスの反射は、アンテナの周辺に存在する障害物に左右され、その性質を一般化するのは困難です。また、実際の設置場所におけるライブテストは、信頼できるGNSS時刻を用いたコントロールが必要となりますが、正確な時刻を得ること自体がマルチパスによって困難であるため、不可能となります。
解決策としては、地理的にリアルなアンテナ設置場所のモデルを使用し、ラジオ周波数コンステレーションシミュレーター(RFCS)によってリアルなGNSS信号を再現し、マルチパスの影響をラボでシミュレートすることです。RFCSは、3次元の環境を再現する環境モデリングソフトウェアであり、また光線をトレースしてリアルなマルチパスの影響を作り出すソフトウェアです。この設定では、マルチパスの有無にかかわらずレシーバーのテストが可能となり、異なる変数を用いても、信頼性の高いテスト結果を再現できます。
マルチパスを評価する完結型のテストベッド
タイミングレシーバーの開発者やユーザーによる、マルチパスに起因するリスクの査定をサポートするため、SpirentおよびそのパートナーであるCalnexは、マルチパスが専用のタイミングレシーバーに及ぼす影響を評価するための、完結したシミュレーションのテストベッドを開発しました。
構成には、Spirent GSS7000マルチコンステレーション、マルチ周波数RF信号シミュレーター、Sim3D環境のモデリングや光線のトレーシングによりマルチパスのシミュレーションを行うソフトウェア、 そして、アウトプットされた1PPS信号やPTP信号の正確性をモニターするCalnexのParagon-Xタイミングモニターなどが含まれます。
Testbed setup for 1PPS and PTP outputs from the timing receiver device under test (DUT)
この構成を使用して当社は、時刻および同期のアプリケーション市場で流通する商用レシーバー3機種をテストしました。テストの目的は、マルチパスが1PPSのアウトプットの正確性を劣化させる度合い、またその結果として生じる、セルラーネットワークにおけるPRTC-A参照時刻に対する タイミングの正確性のITU G.8272基準(+/- 100ns either side of UTC) への非準拠リスクを理解することです。
テストの対象となったのは、単一周波数および複数周波数のマルチGNSSレシーバーおよびフレキシブルIEEE 1588 PRTCです。最初のテストは、障害物が存在せず、マルチパスの影響を受けない環境下で3機種を設置して行われ、続いて都市環境下の3か所(サンフランシスコ、マンハッタン、上海のダウンタウン)に設置され、リアルにシミュレートされたマルチパス信号の影響下で、各機種のテストを行いました。テストは各々、24時間に渡り行われました。
Simulation of line of sight (white), reflected (red) and diffracted (blue) signals, San Francisco location
発見された重大な脆弱性
テストの結果、3つのレシーバー全てにマルチパスの脆弱性が発見されました。障害物が存在しない状況におけるテストでは、DUTの3機種全てからPRTC-Aの基準内の結果が得られました。一方で、密集した都市部環境におけるテストでは、1-PPSおよびPTPの計測結果に重大な劣化が見られ、ITU G.8272基準で定義されたPRTC-Aの制限内に収まりませんでした。
Timing accuracy in clear-sky conditions: timing outputs remain well within the 100ns performance threshold
Timing accuracy in multipath conditions: significant deviations exceed ITU-defined tolerances
結論
テストの結果、障害物がない環境下でタイミングの正確性基準に適合するタイミングレシーバーであっても、マルチパスの影響が大きい環境下では、重大な劣化が観測されました。
以上の結果から、GNSSに依存するタイミングレシーバーのメーカー、インテグレーター、購入者には、マルチパスの影響を受ける環境下でレシーバーをテストし、その影響を軽減する措置を取ることが推奨されます。
(マルチパスの影響を軽減する措置の例については、NTTと古野電気が SpirentのSim3Dソフトウェアを使用し、自社のタイミングモジュールを対象とした マルチパス軽減アルゴリズムを開発した際のケーススタディをご覧ください。
SpirentのSim3Dソフトウェアは、マルチパスの影響を地理的にリアルな3次元の環境でリアルに再現する上で、大きな前進を意味します。お客様は、上記のテストベッドを当社のUKラボにて利用可能です。より詳細な情報について お問い合わせ ください。
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